Quadroとは、NVIDIAが製造しているGPUの一種です。
プロ向けのニーズに答えるための機能が備わっているプロ仕様のGPUです。
「Quadro」とは何か?
「Quadro」はNVIDIAが製造しているGPUの一種です。
基本的には通常のGPU=GeForceなどと変わりありませんが、よりプロ向けのニーズに答えた機能が備わっているGPUになります。
新しい世代では「NVIDIA RTX A6000」「NVIDIA RTX A4000」と命名され、従来のQuadroのブランド名は継承しない形となりました。
ですが、この記事内では同じQuadro系列のGPUとして扱います。
「GPUとは何か」を詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
「Quadro」は10億色の色表現が可能
通常のGPUは赤、青、緑を256段階に分けた物を組み合わせるため、全体として約1677万色を表現できます。
多くの人が見ているのはこの1677万色の映像です。
「Quadro」になると更に細かくなり、全体で10億色以上の色を表現できるようになっています。
ぱっと見の違いは少ないものの、グラデーションにて発生する帯状の境界線となる部分が少なくなるなど、色の表現力が必要な場面では絶大な威力を発揮します。
OpenGL特化
ゲームで使われる「GeForce」の場合、各ゲームアプリはDirectXもしくはVulkanで動くことに特化しています。多くのゲームがそれらの方式で動いているので、それに最適化したほうが都合がいいためです。
一方でプロ向けの「Quadro」は動かすアプリの多くがOpneGLを元にしていることが多いため、OpenGLでの環境に最適化されています。
どちらも最適化されているものが違うだけで「GeForce」でもOpenGLで動いているMaincraftを遊ぶことは可能ですし、「Quadro」でDirectXのゲームタイトルを動かすのは可能です。
より得意な分野であったほうが動作が良くなります。
「Quadro」の用途
ゲーマー目線で見れば、「Quadro」のコストパフォーマンスは決して良いわけではありません。
しかしGPUをゲームではなく仕事道具として使う人からは、「Quadro」こそがニーズに答えてくれるGPUなわけです。
- 医療
- イラスト・写真
- 3D
- 映像
- 動画編集
- ゲーム制作
医療現場
GPUというのは言い換えれば計算機なので、医療の現場でも役立ちます。その高い計算能力で解析などを行い、新しい治療法の開発などにも使われています。
「Quadro」が得意とするのは綺麗で鮮明な映像や画像を提供する事です。レントゲンやCT、MRI、内視鏡など、医療現場で使われる画像というのは多岐にわたります。
内視鏡で見る映像が通常の1677万色だと、組織の僅かな変色が見落とされる原因になるかもしれません。
カメラとモニターを使って見る以上は、実物とは色彩が異なってしまうものですが、可能な限り実物に近い映像で無いと困る。こういった場合10億色以上の表現ができる「Quadro」のようなGPUが必要となります。
近年ではAIによる画像診断技術の登場もあり、より高性能なGPUが求められるようになりました。
イラスト・写真
10億色の表現による色彩であれば、色彩こそが命ともいえるイラストや写真、印刷など分野でも必需品です。
印刷物はインクの配合を変える事で無限に色を作り出せますが、通常のモニターは1677万色。これではモニターで作ったものと、現像したものとの色が合わなくなってしまいます。
これを防ぐ為に「Quadro」のような10億色表現が可能なGPUが必要になります。
3D CAD
GPUは3Dデータの処理が得意です。
そんな3Dデータの一つが工業製品の設計に使う3D CADです。近年では3Dプリンターの普及もあり、個人でも扱う人が増えました。
このCADのソフトがOpenGLベースで動くことが多いのも「Quadro」系GPUの強みです。OpenGL特化の「Quadro」なら処理がスムーズに進むわけです。
また設計が複雑になると細かい線が3次元上に何本も書かれるので、メモリ使用率が上がります。この時に「Quadro」の持つ大きなビデオメモリが有った方が有利になります。
3D映像・映画
CADは実体のある構造物を作る場合に使われるわけですが、映像の世界では3Dは架空の物を映し出すのに使われます。
実際には存在しない巨大な恐竜やドラゴンのような生命体、あるいは実在するがライオンやトラなど扱いに困る物。
安全性の問題から規制が強くなった火薬による爆炎の演出。さらにいえば背景すらもGPUを使って描くことで、実写ではできない表現が可能になりました。
GPU自体が映像を出力するものなので、それ自体が得意分野とも言えますが、現代の映画製作では「Quadro」のようなハイスペックなGPUの処理能力が必要不可欠となっています。
動画制作・編集
映画製作よりも身近なものとしては、YouTubeなどの投稿動画で使われる編集ソフトがあります。
「Adobe Premiere Pro」などが有名ですが、これも基本的には映画製作でも使われる映像編集ソフトで、背景から対象の物を消した上で自然な形の合成を行ったりします。
ソフト自体はGeForceでも動くのですが、動作の安定性から「Quadro」が好ましいとするユーザーも多いです。
ゲーム制作
PCに限らず家庭用ゲーム機でも内部にはGPUが組み込まれており、これを使ってゲームでの滑らかな動作が実現しています。
つまり消費者側で使うGPUがGeForceだったりするわけですが、ゲームの開発者側で使うのが「Quadro」などになるわけです。
ゲームはリアルタイムで動かし変化する映像なので、作るうえでもやはり映像処理能力に長けたGPUは必要。
他の分野同様に「Quadro」は生産者側で使われるグラフィックボードなので、ゲーム制作にも適しています。
また実際に作った後はゲームでの動きをテストをしなければならないので、その都度「Quadro」搭載PC上で動きがチェックできないと困ります。なのでOpenGL特化の「Quadro」であっても、DirectX環境のゲームを動かす事はできるようになっています。
「Quadro」と「GeForce」の違い
「Quadro」はゲーマーのような消費者向けではなく、クリエイターなどの生産者向けのGPUであることがわかりました。
しかし導入する上ではコスト面でのハードルが高いのも事実。
では同じGPUでゲーマー向けに販売されている「GeForce」を使うのではダメなのでしょうか?「Quadro」と「GeForce」を比べて見ました。
価格・スペック
一口に「Quadro」などのプロ用グラフィックボードといっても、作業内容によって必要なスペックが異なります。つまり価格にも差が生じます。
安価なものですと「Quadro P400」が15,000円程度から、最上位になると80~130万円するグラフィックボードもあります。
では処理能力と価格で考えるコストパフォーマンスはどうなのか?RTX3090とRTX A6000で比べると以下の通り。
GPU | RTX3090 | RTX A6000 |
CUDAコア数 | 10496 | 10752 |
メモリバス | 384bit | 384bit |
ビデオメモリ | GDDR6X 24GB | GDDR6 48GB |
消費電力 | 350W | 300W |
価格(目安) | 275,000~320,000円 | 560,000~600,000円 |
ビデオメモリーの容量が倍なので、より容量が大きなデータは扱えるという違いはありますが、CUDAコア数がほぼ同じなので処理能力としての差は大きくありません。
ですが価格は2倍以上の差があり、この結果を見ても「Quadro」系のコストパフォーマンスは悪いと言えます。
基本的な計算能力は同じ
グラフィックボードとしての処理能力=計算能力はCUDAコア数に依存します。
同じ世代のGPU同士で、有効になっているCUDAコアが同数であれば計算能力は一緒になります。
それ以外の違いが出るのはゲーム用途でのブーストクロック数の差などによるところで、この辺りは製品としての性格の違いによるチューニングの差になっています。
ゲームはどちらもできる
「Quadro」でもゲームを起動しプレイする事は可能です。
対応APIについてもOpenGLの他に、DirectXやVulkanなどのゲームで多く使われるAPIにも対応しています。
ただしDirectXでの動作は同じ処理能力ならGeForceの方が特化している分、フレームレートの数値などは高くなります。
GeForceでも10億色出せる
かつては10億色の色表現が最大の違いでもあったわけですが、これも近年になってGeForceが10億色の色表現を可能とする仕様変更がありました。
これは個人のクリエイターの存在があります。
イラストレーターなどの場合は必ずしもハイエンドな「Quadro」シリーズを必要としませんが、扱うデータが大きな動画となるとビデオメモリーの大きなハイエンドモデルが必要となります。しかし「Quadro」のハイエンドは高価で手が出し辛いわけです。
これに対してNVIDIAは2019年に「NVIDIA Studio」の新ドライバを配布し、クリエイターを支援することにしました。
これにより比較的新しい世代のGeForceにおいて、10億色の色表現が可能となりました。
3年保証&サポート
「処理能力同じ」「10億色だせる」「ゲームが得意」となれば、GeForceで十分ではないか?
実際にその様に考えるユーザーは沢山います。GeForce自体が個人のユーザーを対象とした製品でもあるので、個人ユーザーがそう思ってもらう分にはそれで良いのです。
しかし法人の場合は違います。グラフィックボードは仕事道具の一つであるため、品質が良くなければ結果が変わってしまうのです。
この品質という点においては「Quadro」は優れており、NVIDIAによる3年間の長期保証が付き、開発、製造、検査もNVIDIAが一貫して行っています。
またドライバーはソフトウェアメーカーと共同で開発しており、高いパフォーマンスと信頼性が約束されています。
このNVIDIAが「Quadro」のブランド力を保つための取り組みが、価格に反映され、その上でプロが認める高い性能が維持されています。
顧客であるプロは「Quadro」と同時にその製品による安心を買うわけです。